BANANFISH鑑賞 感想

 

 友人に進められて視聴した。視聴前は「BL物語」風な印象が強かったのだが、とんでもない。アメリカ、また世界における社会問題を多く取り上げているアニメであった。

筆者は以前アメリカに住んでいたため、より身近にまたリアルに感じた。素直に思った感想を綴っていこうと思う。

 

①リアルに描かれているNY

NYの実際の地名・場所がそのまま登場し、作品に思いをはせながら聖地巡礼もできる。

また、地名が出ている事で、その場の雰囲気・治安の悪さなどをより具体的にイメージすることが可能となり、アッシュ達がどれほどのスラム街で過ごしているかを実感できるのも良い。また1980年代のNYという時代背景にも思いをはせるとギャングとマフィアのより鮮明になるかもしれない。



②小児愛者、児童ポルノ、人身売買リアル

 原作が連載されていたのは1980年代後半、アニメ化されたのが2018年約30年ほど経過しているにも関わらず、作品の中で書かれている問題がいまだに散見されることに悲しく、驚きを隠せなかった。富豪やセレブ達の小児愛に関するゴシップは後を絶たず。大統領選挙が近くなると「候補が小児愛者だ!」といった記事が登場する。最近もバイデン候補がそうであるといった検証写真を含めた記事も出回っていた。

麻薬売買や、政府との癒着は悪を描く時にイメージがつきやすいと思う、しかしこの問題はとてもデリケートであり、同時にアメリカが抱える大きな社会問題でもある。それを、主人公が巻き込まれている問題というメインストリームとして描こうと決めた作者の心がとても知りたいと強く思う。このアニメはただのエンタメにしてはならないと思う。とてもデリケートで敏感な内容を描いているのだ。アッシュのような子供が今もアメリカで過ごしているのではと思うと、私は異国に住む人間として何ができるのかもどかしい思いでいっぱいになる。最終話まで見たがこれを「最高の結末だった」と消化してはならない気がする。この作品を語る時は自分の発した言葉、感想が誰かを傷つけてしまうかもしれないという事を忘れてはならないと思う。

 

③「愛」について(アッシュ、英二、月龍)

 ビアンカが月龍に言っていた「彼は人を愛する事を知っている。あなたは人を憎むことしか知らない」との趣旨のセリフがこのストーリーのキーではないだろうか。

アッシュも月龍も決して幸せな、安心した人生とは言えない。最初は月龍はアッシュが好きで、彼が気にかけている英二に嫉妬しているのか?と思っていたが、そうではなかった。もっと深いところで、彼は愛を感じ安心する場所があるアッシュに嫉妬していたのだ。だからそのオアシスである英二を殺したいと思っていた。

 バナナフィッシュのギャングたちは17歳とはかけ離れた生活をしているが、こうやって感情が不安定だったり、視野が狭くなってしまったりなど葛藤する内容は違えど、 感度はテティーンそのものなところが少しほっこりする。やはり「少年」なのだ。

 アッシュは両親の愛情を十分に感じられなかったが、自分を大切に思ってくれる兄がいた。月龍は母親を目の前で殺され、義兄達にも酷い仕打ちを受けた。両者の違いはここではないかと思う。「愛された事があるから愛する事ができる」のではと思う。



④アッシュの死

 最後、英二からの手紙のシーンで涙が止まらなかった。人から何かしてもらう時は必ず対価(体)を求められていたアッシュに初めて無償の愛情をかけてくれた英二。会いに行かない方が彼のためだと思っていたアッシュ。しかし、英二からの手紙を受け取り彼がずっと抑えてきた「17歳の少年」のまっすぐさが解放されたように見えた。

赤子がお母さんのお乳を求めて泣くように、子供が母親に抱きつくように、英二の愛情によってアッシュは普通の少年になって、空港に向かってかけてゆく。涙をぬぐいながら「何とか間に合って!」と空港へ走るアッシュと同じ思いで見ていた。

次の瞬間刺されてしまうまでは。まさか、シンがさしてしまうとは思わず「チャイニーズマフィアなんでちゃんと決闘しない!って通達流さないだよ!!」と怒りの気持ちがいっぱいだった。なんとか、気持ちを収めたいこの思いを消化したいと思い、様々な考察を廻った。その中で自分も冷静になり「なるほど」とだんだんと落ち着いて来た。

 もちろんアッシュが英二と一緒に日本へ渡りゼロから人生をやり直し、幸せになってほしいというのは本音だ。しかし、身を守る上で何人もの人を殺してしまった事実は変わらない。とくにオーサーとの争いの時は、無抵抗の相手も殺してしまった。きっと、ショーターを殺めた事も彼を悩ませるかも知れない。ともすると、彼は罪を背負い償っていかねばならない、と考えると、彼の戦いのおかげで悪は滅び、最後英二からの手紙で無償の愛を感じ、一番好きな図書館で最期を迎えられたのがアッシュにとっては一番幸せだったのではないだろうか。

 

正直この作品を「良いアニメ!」「みんな見て!」と大きな声で勧めることはできないと感じている。なぜなら、扱っているテーマがとてもデリケートであり、もう一度言うが誰かが傷ついてしまうかもしれないからだ。しかし、このアニメを通してアッシュやギャングの子供たちのように搾取されるしかない環境に置かれている子供や人々がいる、これはアニメの世界の中だけのことではなく社会で起きている問題なのだ。アニメだからこそ描けたストーリーなのかもしれないと一人でも多くの人に気づき、感じてもらいたいと思う。